住宅ローンの支払・子ども手当の支給・高校授業料の無償化と婚姻費用の算定

 妻が夫に請求する婚姻費用の額については、現在の実務では、裁判所が公表している標準算定方式に基づいて算定されることが一般的であり、東京家庭裁判所サイトでも養育費・婚姻費用算定表が掲載されているところです。また、最高裁平成18年4月26日決定も標準算定方式による算定が是認されています。

 しかし、標準算定方式が全ての事情を織り込んでいるわけではありませんので、夫から、一定の事情を主張して標準算定方式による額よりも減額されるべきだと主張されることがあります。

1 住宅ローンの支払

 夫のローン支払いは婚姻費用の減額事由となるのでしょうか?

 この点、福岡高裁那覇支部平成22年9月29日決定は、「婚姻費用の支払義務は自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務(生活保持義務)であって、夫が主張するような債務の支払に劣後するものではない。」とし、婚姻費用が減額されないとしています。

2 子ども手当の支給

 また、妻が子ども手当を受給している場合でも、上記福岡高裁那覇支部決定は、「子ども手当制度は、次代を担う子どもの育ちを社会全体で応援するとの観点から実施されるものであるから、夫婦間の協力、扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担の範囲に直ちに影響を与えるものではない。」とし、上告審である最高裁平成23年3月17日決定も、これを是認しています(広島高裁平成22年6月24日決定も同様です)。

3 公立高校の授業料無償化

 更に、子どもの通う公立高等学校の授業料が無償化されたことについても、上記福岡高裁那覇支部決定は、「公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく、長女の教育費ひいては妻の生活費全体に占める割合もさほど高くはないものと推察されるから、授業料の無償化は、夫が負担すべき婚姻費用の額を減額させるほどの影響を及ぼすものではない。また、    また、これらの公的扶助等は私的扶助を補助する性質のものであるから、この観点からも婚姻費用の額を定めるにあたって考慮すべきものではない。」としています。

 養育費や婚姻費用については裁判所の養育費・婚姻費用算定表により簡単に算定されるようになってきていますが、まだまだ修正要素として争われる項目が多く、安易に考えることなく弁護士に相談されることをお勧めします。

(弁護士 井上元)