不貞(不倫)した夫に対する免除と相手方女性に対する慰謝料請求

1 夫との間における調停成立

 夫が不貞(不倫)したことにより、夫と離婚調停になり、夫との間の調停条項で「条項に定めるほか名目の如何を問わず互いに金銭その他一切の請求をしない」とする解決がなされることもあります。親権、養育費、財産分与など離婚に付随する問題について夫から一定の譲歩がなされる場合には妻としても慰謝料についてはある程度の譲歩を行い、解決を図ることもあるのです。

2 相手方女性に対する慰謝料請求

 それでは、夫との間において、上記のような調停が成立した場合、妻は不貞(不倫)の相手方女性に対して慰謝料を請求することができるのでしょうか?

 この問題につき、最高裁平成6年11月24日判決は、次のように述べて、夫に対して慰謝料を免除しても相手方女性に対して免除の効力は生じないとしました。

 妻と夫との間においては、平成元年6月27日本件調停が成立し、その条項において、両名間の子の親権者を妻とし、夫の妻に対する養育費の支払、財産の分与などが約されたほか、本件条項が定められたものであるところ、右各条項からは、妻が相手方女性に対しても前記免除の効力を及ぼす意思であったことは何らうかがわれないのみならず、記録によれば、妻は本件調停成立後4箇月を経過しない間の平成元年10月24日に相手方女性に対して本件訴訟を提起したことが明らかである。右事実関係の下では、妻は、本件調停において、本件不法行為に基づく損害賠償債務のうち夫の債務のみを免除したにすぎず、相手方女性に対する関係では、後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべきであり、本件調停による債務の免除は、相手方女性に対してその債務を免除する意思を含むものではないから、相手方女性に対する関係では何らの効力を有しないものというべきである。

3 夫との調停における対応

 上記最高裁判決は、被害者である妻の意思に着目して、夫に対する免除の効力が相手方女性に効力を及ぼすか否かを判断したものです。

 判例解説では「今後は裁判上の和解ないし調停において、免除条項を入れる場合には、その免除が相対的効力しか認めない趣旨であるか否か、について当事者の意思を明らかにしたうえで、条項を作成するのが望まれる」とされているとおり、夫との間で話し合いをする際には、その後、不貞(不倫)の相手方女性に対して慰謝料請求をするか否かについても検討したうえ、条項には注意を払う必要がありそうです。

(弁護士 井上元)