1 再訴の禁止
人事訴訟法25条1項では「人事訴訟の判決が確定した後は、原告は、当該人事訴訟において請求又は請求の原因を変更することにより主張することができた事実に基づいて同一の身分関係についての人事に関する訴えを提起することができない。」と規定されています。
例えば、相手方が不倫(不貞)をしたと主張して民法770条1項1号を理由として離婚請求訴訟を提起し、相手方に不倫(不貞)はなかったとして請求が棄却された後、民法770条1項5号に基づき、婚姻関係は破綻していると主張して再度離婚訴訟を提起することは認められません。
2 再訴が認められる場合
しかし、有責配偶者であるため離婚請求が棄却された後、長期間が経過した場合、前訴後の事情が斟酌され、離婚請求が認められることがあります。
この点、東京地裁昭和60年3月19日判決は、「失権的効果が生ずるのは、前訴の事実審の口頭弁許終結の時までに存在した事実に基づく主張にかぎられる。これに反して、右口頭弁論の終結後に生じた事実に基づく主張は、前訴に併合し又は反訴として提起する機会がなかったのであるから、失権的効果を受けることがないこと明らかである。」と判示しています。東京地裁平成61年9月24日判決および神戸地裁平成元年6月23日判決も同様です。さらに、福岡高裁那覇支部平成15年7月31日判決も、同様の見解に基づき、詳細な認定を行っています(原審:那覇地裁平成15年1月31日判決)。
3 夫から離婚訴訟を提起された場合の妻の対応
婚姻関係を破綻させた夫から離婚請求訴訟を提起された場合、妻はこれを争い、離婚請求を棄却させるということも考えられます。
しかし、離婚訴訟で勝訴しても、その後、長期間が経過すると、夫から再度離婚訴訟を提起されると、いずれは離婚が認められることになってしまいます。このことも考慮して対応を検討すべきでしょう。
(弁護士 井上元)