財産分与は夫婦共有財産を2分の1ずつ分けることが一般的ですが、夫が離婚判決が確定するまで調停で決められた婚姻費用の額を上回る婚姻費用を支払ってきた場合、超過分は財産分与の前渡しであると解されるのでしょうか?
また、別居後、離婚確定までの年金も2分の1で分割されるのででょうか?
この点につき大阪高裁平成21年9月4日決定(家庭裁判月報62巻10号54頁)が判断していますので紹介しましょう。
【事案の概要】
- 夫婦は、昭和47年に婚姻
- 平成6年、夫婦は別居
- 妻は、平成17年、に夫に対して婚姻費用分担分担を求める調停を神戸家庭裁判所へ申し立て、平成18年、月額20万円を支払うことを合意する調停が成立したが、夫は20万円を上回る婚姻費用を送金
- 平成20年に最高裁判所判決により離婚判決が確定
- 平成20年離婚判決確定後、妻は、財産分与、慰謝料、年金分割を求める調停申立
【決定の内容】
1.本件財産分与
まず、財産分与の対象につき同居中に形成された夫婦財産に限られ、これに対する妻の寄与は2分の1としました。
そして、夫の、妻に対して送金した婚姻費用のうち妻にも賃金センサスに基づく相応の稼働能力を推計した上で算定される標準的な婚姻費用の額を超える分は財産分与の前渡しと評価すベきであるとの主張につき次のように判断し、前渡しであるとした原審の奈良家裁平成21年4月17日審判(家庭裁判月報62巻10号61頁)を変更し、財産分与の前渡しであるとの主張を排斥しました。
「別居中の夫婦の婚姻費用分担については、その資産、収入その他一切の事情を考慮して定められるものであり(民法760条)、当事者が婚姻費用の分担額に関する処分を求める申立てをした場合(家事審判法9条1項乙類3号)には、調停による合意をするか、審判をすることになる(同法26条1項)。したがって、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に、その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合であれば格別、そうでない場合には、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて送金した額が、審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって、超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない。
そして、本件では、妻は夫と婚姻後、家事や育児に専念し、婚姻して10年ほど経ったころから宗教活動に多くの時間を割くようになったが、更に12年ほどは夫と同居し、宗教活動をしながら育児や家事をする生活を続け、長期間就労していなかったこと、夫が妻や子らを残して出た自宅には家賃を要したことなどにかんがみると、夫が送金していた、賞与を除く給与の月額手取額の2分の1をやや下回る額(平成17年×月以降はこれを更に下回る月額20万円)が著しく相当性を欠いて過大であったとはいえない。ちなみに、妻の収入を0として、標準的算定方式に基づく標準的算定表に夫の各年度の収入を当てはめると、婚姻費用の標準月額は、平成6年が14万円から16万円の範囲内、平成7年が18万円から20万円の範囲内、二女が成年に達した平成8年×月以降は14万円から16万円の範囲内、あるいは、16万円から18万円の範囲内であるから、この点でも、夫が妻に対して送金した婚姻費用が著しく相当性を欠いて過大であったとまではいえない。」
2.年金分割
また、原審の奈良家裁平成21年4月17日審判は平成6年の別居後の年金分割を否定しましたが、これについても次のように述べて変更し、離婚までの年金分割を認めました。
「年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ、その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべきである。そして、上記特別の事情については、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって、妻が宗教活動に熱心であった、あるいは、長期間別居しているからといって、上記の特別の事情に当たるとは認められない。」
(弁護士 井上元)