有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則ですが、不貞した妻からの離婚請求が認められた事例があります。
東京高裁平成4年12月24日判決(判例時報1446号65頁)
「認定の事実関係によれば、妻と夫との間の婚姻関係は既に破綻し、妻の離婚意思は固く、夫は離婚には応じないものの、これまでの態度を改め、自分の方から関係改善への努力をするような兆しも見られないことに照らすと、回復の見込みはないものというべきである。
ところで、旧民法814条2項、813条2号は、妻に不貞行為があった場合において、夫がこれを宥恕したときは離婚の請求を許さない旨を定めていたが、これは宥恕があった以上、再びその非行に対する非難をむし返し、有責性を主張することを許さないとする趣旨に解される。この理は、現民法の下において、不貞行為を犯した配偶者から離婚請求があった場合についても妥当するものというべきであり、相手方配偶者が右不貞行為を宥恕したときは、その不貞行為を理由に有責性を主張することは宥恕と矛盾し、信義則上許されないというべきであり、裁判所も有責配偶者からの請求とすることはできないものと解すべきである。本件において、既に認定したところによれば、夫は、妻の丙川との不貞行為について宥恕し、その後45か月間は通常の夫婦関係をもったのであるから、その後夫婦関係が破綻するに至ったとき、一旦宥如した過去の不貞行為を理由として、有責配偶者からの離婚請求と主張することは許されず、裁判所もこれを理由として、本訴請求を有責配偶者からの離婚請求とすることは許されないというべきである。
そして、前記認定の事実関係によると、妻と夫との婚姻関係は、既に回復し難いほどに破綻したものというべきであるから、民法770条1項5号にいう「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するものというべきであり、右破綻について妻に専ら又は主として責任があるとはいえないから、妻の本訴請求は正当として認容すべきである。」
上記裁判例は、夫が妻の不貞行為をいったん宥恕したことを理由として妻からの離婚請求を認めていますが、婚姻関係の破綻について夫にも一定の責任があると思われる事案であり、「宥恕」の有無にかかわらず妻の離婚請求が認められて然るべき事案ではないかと思われます。
(弁護士 井上元)