離婚届書作成後長期間経過後に提出した場合の離婚の効力

妻側から、大分前に夫に書いてもらった離婚届書を持っているが、今からこの離婚届書を提出してもよいかと聞かれることがあります。

まず、妻が夫から預かった離婚届書を長期間経過後に提出した場合の離婚の効力についてですが、届出時点においても夫に離婚意思及び届出意思があれば離婚は有効となる可能性があります。
この点、東京高裁平成21年7月16日判決(判例タイムズ1329号213頁)は、9ヶ月後に妻が離婚届書を提出した事案において、「妻は、わずかながらも夫が定職に就いてくれれば離婚しなくてもよいと期待していたために同年10月1日まで本件届出をすることがなかったが、その間、妻の期待どおりに事は運ばず、夫と妻の婚姻関係は改善されず、かえって、同年9月には借入金や滞納税の支払に充てるため夫婦の自宅(土地は双方の共有、建物は夫の単独所有)を9500万円で売却してその支払に充て、残った代金を双方が分割取得した上、夫はこの資金で新たに単独名義の自宅を取得してこれに居住し、妻はアパートを借りてこれに居住し、以後別居状態となるなど生活状況が妻の上記期待に反して激変したことが認められる。他方、夫から妻に対し離婚の届出をしないようにとの申出があったことは、本件全証拠によるも認められない。したがって、夫の離婚意思に変動は認められず、本件届出当時、夫は、離婚の意思及び届出意思を有していたものと認めるのが相当である。 」と判示して、離婚は有効と判断しました。

上記の事案のように、具体的な事情によっては離婚は有効とされる可能性もありますが、上記裁判例の事案でも、夫から離婚は無効だと争われ、一審では無効とされています。

離婚届出時に夫に離婚届書を提出してよいか確認できればともかく、確認しないまま提出すると、余分な紛争が生じかねませんので、注意が必要です。

(弁護士 井上元)