財産分与~慰謝料的要素の使い方

離婚する際には財産分与がなされることは皆さんご承知のことだと思います。

そして、財産分与の要素として、大きく分けると、(1)清算的要素、(2)扶養的要素、(3)慰謝料的要素があるということもいろいろなところでも解説されています。

(1)清算的要素とは、夫婦が婚姻期間中に形成した財産を分けるというものであり、現在の実務では原則として2分の1ルールが確立されています。

(2)扶養的要素とは、例えば、別れた後の妻が生活をすることが困難な場合、離婚後の扶養のために一定額を分与するものです。

(3)慰謝料的要素とは、離婚に伴う慰謝料を財産分与の中で考慮するというものです。財産分与の要素として慰謝料的要素が認められるのは財産分与制度の沿革によるものと思われますが、慰謝料は財産分与とは別に単独で請求することができ、その方が金額的に多く認められる可能性がありますので、実務上、慰謝料は財産分与とは切り離して請求されることが多いと思います。 

したがって、現在の実務では、財産分与の要素として慰謝料的要素を主張する意味はほとんどないと言えますが、1つだけ、意味がある場合が考えられます。それは、財産分与により不動産の現物分与を求める場合です。例えば、夫婦の財産として時価600万円の夫名義の自宅しかない事案で、妻が財産分与として自宅の取得を希望しても、清算的要素としては2分の1しか分与されません。この場合、財産分与として慰謝料的要素が考慮されれば、全てを財産分与として取得できる可能性があります。

ただし、単純に慰謝料的要素として300万円認められるか分かりませんし、妻の希望とおり自宅を分与してもらえるかも分かりません。

財産分与は金銭で行われることが原則であり、現物で分与を受けることができるか否かは、なかなか判断が難しいところですが、慰謝料的要素の使い方とし覚えておいた方がよいでしょう。

(弁護士 井上元)