未成年者の養子縁組と養育費減額・免除

養育費の調停・審判がなされた後、事情の変更が生じたときには、家庭裁判所は、審判の変更をなすことができます。「事情の変更」とは、協議又は審判の際に考慮され、あるいはその前提とされた事情に変更が生じた結果、調停や審判が実情に適さなくなったことと解されています。

養子縁組と扶養義務

XとYが離婚し、Yが未成年者の親権者となった後、YがZと再婚して、未成年者とZが養子縁組をすることがあります。

この場合、未成年者の扶養義務は第一次的には親権者Yと養親となった再婚相手Zが負うことになりますので、非親権者Xの扶養義務は免除されると解されています。ただし、親権者Yと養親Zがその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第二次的に実親Xが負担すべきことになります。

減額・免除の時期

未成年者の養子縁組による実親Xの養育費減額・免除の時期については、調停申立等の減額・免除の請求時とするもの、事情変更時(養子縁組時)に遡及するとするものがありますが、実務では、原則として事情変更時に遡及すると解したうえ、権利者と義務者いずれの側に生じた事由であるかなどの諸事情を総合考慮して、変更の遡及効を制限すべき事由が認められるか判断する枠組みが有力とされています。

東京高裁令和2年3月4日決定・判例時報2480号3頁がこの枠組みにしたがって判断していますのでご紹介します。

東京高裁令和2年3月4日決定

2 相手方の養育費支払義務について

⑴ 両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は、第1次的には親権者及び養親となった再婚相手が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第2次的に実親が負担すべきことになると解される。 

前記1によれば、相手方と抗告人Yは、未成年者らの親権者を抗告人Yと定めて離婚したところ、未成年者らは、抗告人Yの再婚に伴い、再婚相手である抗告人Zと平成27年12月15日に養子縁組をしたのであるから、同縁組により、未成年者らの扶養義務は、第1次的に抗告人らにおいて負うべきこととなったというべきである。そして、抗告人Zの平成30年の定申告における課税所得が約3870万円であることに照らすと、抗告人らが、その資力の点で未成年者らに対し十分に扶養義務を履行できない状況にあるとはいい難い。したがって、本件合意に基づく相手方の養育費支払義務についてはこれを見直して、支払義務がないものと変更することが相当である。

⑵ 抗告人らは、前記第2の2のとおり、抗告人Zにおいて、亡父が設立した会社の4億円近い債務を連帯保証していること、前妻との子に対し養育費を負担していること、本件合意により定められた未成年者らの養育費が多額であること等の事情を挙げて、相手方の養育費支払義務を免除すべきでない旨主張するが、たとえ上記事情が存在するとしても、そのことから直ちに、抗告人らが未成年者の扶養義務を十分に履行できないと認めることはできないし、十分な扶養義務の履行ができないことを裏付けるに足りる資料は見当たらない。

3 養育費の免除の始期について

一度合意された養育費を変更する場に、その始期をいつとすべきかは、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解されるところ、本件の具体的事情に応じて、以下この点につき検討する。

前記1によれば、相手方は、本件調停申立ての前月である平成31年4月まで、本件合意に基づき未成年者らの養育費を支払っており、未成年者らと抗告人Zの養子縁組の翌月(平成28年1月)以降の相手方による支払済みの毎月の養育費は合計720万円に上る上、相手方は、長女のG留学に伴う授業料も支払っている。このような状況の下で、既に支払われて費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、抗告人らに不測の損害を被らせるものであるといわざるを得ない。

また、相手方は、抗告人Yから、平成27 年11月22日の再婚後間もなくの同月24日に、再婚した旨と、未成年者らと抗告人Z が養子縁組を行うつもりであるとの報告を受けている。したがって、これにより相手方は、以後未成年者らにつき養子縁組がされる可能性があることを認識できたといえ、自ら調査することにより同養子縁組の有無を確認することが可能な状況にあったというべきである(この点につき相手方は、同年12月15日にされた未成年者らの養子縁組につき、同月18日に抗告人Yから未だこれがされていないとの虚偽の報告を受けた旨主張するものの、この点を裏付ける客観的資料は提出されていない上、仮に、同日時点で抗告人Yがそのような報告をしたとしても、その後も未成年者らにつき養子縁組が行われる可能性はずっと継続していたのであるから、相手方において同縁組の有無を知ろうとする意思があれば、自らの調査により同縁組の事実を確認することが可能であったことは何ら否定されない。)。したがって、相手方は、抗告人Yの再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立てを行うことなく、3年以上にもわたって720万円にも上る養育費を支払い続けたわけであるから、本件においては、むしろ相手方は、養子簿組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に本件調停を申し立てるまでは、未成年者らの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払い続けたものと評価することも可能といえる。

以上の事情を総合的に考慮すれば、相手方の養育費支払義務がないものと変更する始期については、本件調停申立月である令和元年5月とすることが相当である。

(弁護士 井上元)