妻が夫Aの不貞相手の女性に対し慰謝料請求を行うことはよくありますが、一方、相手方女性が、妻の連絡や請求の態様が違法であったと主張することもままあるところです。
妻が相手方女性に対して慰謝料請求訴訟を提起したところ、逆に、相手方女性が妻に対して慰謝料を請求する反訴を提起した事案がありますのでご紹介します。
東京地裁平成19年8月22日判決
事案の概要
1 妻Xが、Y女に対し、Y女が夫Aと不貞行為をし,それが原因で夫Aとの婚姻関係が破綻したと主張して、Y女に対し、慰謝料300万円を請求する訴訟を提起した。
2 これに対し、Y女は、妻XがY女の勤務先に押し掛けてきたり、勤務先に嫌がらせの電話をしたりして、Y女の名誉感情及び精神的自由を侵害されたと主張して、妻Xに対し、慰謝料100万を請求する反訴を提起した。
Y女の主張
ア Y女は、平成17年10月27日夜、自宅のポストに配達証明郵便の不在届があるのを見つけたが、差出人に見覚えがなく、しかもY女の名前を間違えていることから、配達ミスかも知れないと思い、そのまま放置した。
イ 妻Xは、同月31日午後2時30分ころ、事前の連絡もせず、Y女の勤務先である○○株式会社に押し掛けてきた。
妻Xは、Y女に対し、会社の受付電話で「Aの妻」と名乗り、Y女を会社の入口に呼び出した。
Y女が妻Xに対し、用件を尋ねると、妻Xは、Aの妻であるが、内容証明郵便を読んだか否かを確認した。Y女は、妻Xに対し、不在届があったが、内容証明郵便はまだ確認していない旨伝えた。妻Xは、不在届の意味が理解できず、社員が頻繁に出入りする会社入口であるエレベーターホールにおいて、内容証明郵便について「確認した、しない」の押し問答となった。その後、妻Xは、「証拠は揃っておりますので」と言って、その場から退去した。
Y女は、当日現場を目撃していた同僚から「あの人達は誰」、「何なの子連れ」と質問を浴びせられた。
ウ 同年11月2日午後2時30分ころ、妻XからY女に対し会社の代表電話番号経由で嫌がらせの電話が入り、配達証明を受け取ったか否かを執拗に求めた。
Y女は、妻Xに対し、翌日の同月3日に郵便を受け取ることになっている旨伝えた。静かなオフィス環境のため、Y女が妻Xと電話で話す内容が周辺の同僚にすべて聞かれてしまう状況であり、妻Xはこうしたことを分かっていながら行動したのである。
エ 同月4日午後6時ころ、妻XからY女に対し会社の代表電話番号経由で、再度嫌がらせの電話が入った。この時も、妻Xは、配達証明の受取の確認を執拗に求めたので、Y女は、3日に受け取った旨伝えた。
この時間帯には、ほとんどの社員が会社におり、Y女が妻Xと話す内容は周辺の同僚にすべて聞かれてしまう状況であった。
オ 以上のような妻Xの嫌がらせ行為により、Y女の名誉感情及び精神的自由が侵害され、これによるY女の精神的苦痛に対する慰謝料の額は、100万円を下らない。
妻Xの主張
Y女の主張アの事実は不知、同イの事実のうち妻Xが平成17年10月31日午後2時30分ころ、Y女の勤務先である○○株式会社を訪問したこと、妻XがY女に対し内容証明郵便を受け取ったか否かを確認しようとしたこと、内容証明郵便を受け取るよう要請するためY女と会話を交わしたことは認めるが、その余の事実は不知、同ウの事実のうち妻Xが同年11月2日午後2時30分ころ、○○株式会社に電話し、Y女に対し、内容証明郵便を受け取ったか否かを確認しようとしたこと、Y女が妻Xに対し、翌3日に内容証明郵便を受け取ることになっていることを伝えたことは認めるが、その余の事実は不知、同エの事実のうち妻Xが同月4日午後6時ころ、Y女に電話し、内容証明郵便を受け取ったか否かの確認をしようとしたこと、Y女から3日に受け取ったとの応答があったことは認めるが、その余の事実は不知。
Y女は、妻XがY女の勤務先会社を訪問して面会したことや、Y女の勤務先会社に電話したことなどをY女に対する嫌がらせであると主張するが、妻Xの上記のような行為を嫌がらせとみるのは、Y女の主観的な評価によるものであり、一般に、妻たる女性が夫の不倫相手の女性に対し、一度面会を求めたり、差し出した内容証明郵便を受け取って読んだか否かの確認のために勤務先会社に一度か二度電話したりする程度のことは、やむを得ない行為とみるのが相当である。
仮に、不倫相手と目される女性が全く身に覚えがないのであれば、その旨弁明すれば済むことであり、退職を余儀なくされる必然性もない。
Y女の主張は、妻Xの行為の否定的評価を主観的に誇張し、強いて名誉感情及び精神的自由への侵害と強弁しているにすぎないものであって、法的な損害賠償請求権を根拠づけるには不十分なものである。
判決
妻Xが平成17年10月31日午後2時30分ころ、Y女の勤務先である○○株式会社を訪れ、Y女に対し、内容証明郵便を読んだか否かを確認したり、その後も、同年11月2日及び同月4日、Y女に対し、電話で配達証明を受け取ったか否かを確認したり、妻Xからの内容証明郵便を受け取ったY女に対し、「きちんと対応して下さい。証拠は揃っていますから」などと述べたことは確かであるが、Y女は、上記のような妻Xの行為が嫌がらせ行為として不法行為となる旨主張するのであるが、その内容、程度等に照らし、妻たる妻Xが夫の不貞行為の相手であるY女に対し、面会を求めたり、差し出した内容証明郵便を受け取って読んだか否かの確認のために勤務先会社に電話をしたりした行為が、Y女に対する違法な嫌がらせ行為として不法行為を構成するとまでは認めることができない。
コメント
妻が夫の不貞を知った場合、相手方女性に対して、ある程度強い行動に出てしまうこともあります。しかし、その行動が過度に至った場合、逆に、相手方女性から慰謝料請求をされることもあり得ます。上記判決では、不貞相手の女性の反訴は認められませんでしたが、注意が必要です。
(弁護士 井上元)