不貞をした夫と相手方女性の片方から慰謝料の支払いを受けた場合

 コラム「不貞をした夫に対する慰謝料免除の効力に関する最高裁平成6.11.24」で紹介しましたように最高裁平成6年11月24日判決は、不貞行為を行った夫と相手方女性が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する民法437条の規定は適用されず、夫に対する免除の効力は相手方女性には及ばないとしました。

 しかし、実際に、夫もしくは相手方女性の片方から支払を受けた場合には、もう片方の相手方女性もしくは夫が負担する損害賠償債務は影響を受けることになります。

 この点が争いとなった裁判例をご紹介します。

全額補填されたとされた事例

東京地裁昭和61年12月22日判決

 原告は共同不法行為者から既に1000万円の慰謝料を受領しているから、既に全額補填済になっているとした。

横浜地裁平成3年9月25日判決

事案の概要

X女とA男は婚姻した夫婦であったところ、A男はY女と知り合い不貞を行った。

X女とA男は離婚し、A男はX女に対し、慰謝料500万円及び財産分与400万円を支払った。

判決

X女はY女に対し慰謝料請求をしたが、判決は次のように述べて棄却した。

「X女とA男との離婚の主たる原因はY女と男の不貞行為にあるというべきであるから、右金500万円の慰謝料には本件不貞行為によるX女の精神的苦痛を慰謝する趣旨も当然含まれているものといわざるをえない。そして本件の不貞行為はY女とA男のX女に対する共同不法行為を構成し、それぞれの損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務の関係になるものと解するところ、本件では右のとおり共同不法行為者の一人であるA男からX女に対し、既に前記認定の相当額を上回る慰謝料の支払いがなされているのであるからX女の本件精神的損害は全額填補されている関係にあり、Y女のX女に対する本件損害賠償債務も右訴外人の履行行為により消滅したものといわざるをえない。」

一部考慮された事例

東京地裁平成17年6月9日判決

事案の概要

X男とA女は夫婦

A女とY男が不貞

X男とA女は離婚

X男とA女は、離婚したが、その際、A女から、X男に対し、調査会社の費用250万円、解決金100万円、弁護士費用50万円の合計400万円が支払われた。

判決

「慰謝料については、X男とA女との婚姻期間、A女がX男に対して解決金として100万円を支払っていること、Y男が妻子が有りながらA女を弄んだ結果、A女とX男との婚姻関係を破綻させた責任は重いことなどを総合考慮すると、100万円を以て相当であると認める。そして、不法行為についての弁護士費用は認容額の約1割程度の10万円を以て相当と認める。」

財産給付が慰謝料に充当されないとした事例

東京地裁平成17年8月22日判決

事案の概要

X女とA男は夫婦であった。

Y女とA男が不貞をし、X女とA男は協議離婚した。

X女がY女に慰謝料請求した。

判決

Y女の、X女はA男から既に多額の財産的給付を受け、不貞行為について不真正連帯債務者であるY女の慰謝料請求権も弁済により消滅したとの主張につき、判決は「A男が財産分与として支給した給付の一部が、X女のA男に対する慰謝料の弁済として充当され、不真正連帯債務者であるY女の債務が消滅したものとは認められない」として、X女の請求を300万円認めた。

コメント

 不貞した夫と相手方女性に対する慰謝料請求は、相手方女性に対する請求は不貞慰謝料のみです。

 れに対し、夫に対する請求は養育費、財産分与、離婚による慰謝料、不貞慰謝料など多様な内容になり、実際に財産給付された財産のどの部分が不貞慰謝料になるのか判然としない場合が多いのではないでしょうか。

 実際の処理に際しては、この点を十分に理解する必要があります。

(弁護士 井上元)