妻の方から離婚や不貞慰謝料請求についての相談を受けていますと、夫の預金通帳や手紙などの書類、会話の録音、メールなどの資料を持っているが、これを証拠として使ってよいのかと質問を受けることがあります。
民事事件においても、違法に収集した証拠は裁判において排除されることがあります。そこで、離婚や不貞に関する裁判で違法収集証拠であるとして争われた裁判例をご紹介します。
裁判例の紹介
名古屋地裁平成3年8月9日判決
事案の概要
X女が、夫であるA男の不貞相手であるY女に対して慰謝料を請求した。
X女は、A男が賃借していたマンションの郵便受けの中から、A男に無断で持ち出して開披し、隠匿していた信書を証拠として提出したところ、Y女は、当該信書は違法収集証拠であるから、違法収集証拠排除の原則を適用し証拠として採用すべきでない旨主張した。
判決
「民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関して何ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠は、それが著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである等、その証拠能力自体が否定されてもやむを得ないような場合を除いて、その証拠能力を肯定すべきものである。」
「夫婦間の一般的承諾のもとに行われる行為の範囲を逸脱して取得した証拠であることが伺われなくもないが、前記認定のとおり、A男は、Y女との関係をX女に隠そうとしていなかったこと、A男は現在もX女らと共に鰻屋を営んでおり、X女と同居していることがみとめられるのであるから、右証拠収集の方法、態様は、民事訴訟において証拠能力を否定するまでの違法性を帯びるものであるということはできないと考える。」
東京地裁平成10年5月29日判決
事案の概要
X男は、妻であるA女と不貞を行ったY男に対して慰謝料を請求した。
A女は、X男が裁判における陳述書の原稿ないし手元控えとして作成した大学ノートを、別居後にX男方に入って持ち出した。
裁判で、Y男は、上記大学ノートを証拠として提出しようとした。
判決
「わが民事訴訟法は、刑事訴訟法と異なり、証拠能力については規定しておらず、すべての証拠は証拠能力を付与されるかのごとくであるか、当該証拠の収集の仕方に社会的にみて相当性を欠くなどの反社会性が高い事情がある場合には、民事訴訟法2条の趣旨に徴し、当該証拠の申出は却下すべきものと解するのが相当である。」
「これを乙四の大学ノートについてみると、同文日書の記載内容・体裁、甲六のX男の陳述書の記載内容との比較対照の結果、X男本人の供述を総合すると、乙四は、X男本人が甲六の陳述書の原稿として弁護士に処し差し出したものか又はその手元控えてあることが明らかであり、そのような文書は、依頼者と弁護士との間でのみ交わされる文書であり、第三者の目に触れないことを旨とするものである。乙四は、おそらくA女がX男と別居後にX男方に入り、これを密に入手して、Y男を介して、Y男訴訟代理人に預託したものと推認される。そうすると、乙四は、その文書の密行性という性質及び入手の方法において、書証として提出することに強い反社会性があり、民事訴訟法2条の掲げる信義誠実の原則に反するものであり、そのような証拠の申出は違法であり、却下を免れないというべきである。特に、乙四には、これを子細にみると、Y男に有利な点もあれば、不利な点もあり、Y男は、突然として、後出の書証として、提示し、そのうち有利な点をあげつらって、反対尋問を行おうとしたものであって、許容し難い行為である。」
東京地裁平成17年5月30日判決
次のように判示して、原告から提出された被告のメールは違法収集証拠ではないとした。
「本件メールは、原告と被告が共同で使用するパソコンの中に保存されていたものであること、原告は、被告が、平成13年○月○日、行き先も告げずにマンションを出て行ってしまったため、共通のパソコンを開いて、メールを閲覧、謄写したことが認められる。」
「原告が、被告の家出後、被告の所在や事情を確認する必要から、共通のパソコンを開いて本件メールを閲覧したとしても、その取得方法が、民事訴訟における証拠能力を排除しなければならないほど、著しく反社会的方法によって取得されたものとは認められない。」
大阪高裁平成21年11月10日判決
調査会社に依頼して行動を調査することが著しく反社会的な手段であるということはできず、違法収集証拠とはならない。
コメント
夫婦間における紛争に際しては、同居していたり、別居後間もない頃であるなら、比較的容易に相手方に関する証拠を取得することができます。
このようにして取得した証拠を裁判で採用されるか否かという問題が、いわゆる違法収集証拠の問題です。
離婚や不貞に関する裁判では上記のような判断がされていますので参考にしてください。
(弁護士 井上元)