婚姻費用分担額の減額請求について判断した東京高裁平成26年11月26日決定をご紹介します。
事案の概要
妻と夫は、平成2年に婚姻し、両名の間に、長男(平成4年生)と二男(平成7年生)が生まれたものの、平成23年に別居した。
平成23年、妻は、家庭裁判所に対し、婚姻費用分担調停を申し立てたが不成立となり、審判へ移行した。平成24年、当該裁判所は、夫の年収を485万5020円、妻の年収を184万2660円とした上、妻が長男及び二男を監護養育しているものとして、夫に対し、妻に婚姻費用分担額として月額10万円を支払うよう命じ、当該審判は確定した(以下「前審判」という)。
平成26年2月、夫は、前審判後に収入が減少したと主張して、家庭裁判所に対し、婚姻費用分担(減額)調停を申し立てた。当該調停は、不成立となり、審判へ移行した。
夫の平成25年分の源泉徴収票によれば、夫の同年分の給与収入は424万7384円であり、妻の平成26年度の市民税・県民税課税証明書によれば、妻の平成25年分の給与収入は271万1072円であった。もっとも、妻は、平成26年×月から×月にかけて手術を受け、就労することができず、この2か月間の収入は合計で約12万円弱程度であった。
原審判
前審判において認定された夫の年収は485万5020円であったとところ、夫の平成25年分の給与年収は424万7384円であって、前審判時と比較して収入が減少しており、婚姻費用分担額の算定に当たって事情の変更があったものとして考慮すべきである。婚姻費用分担額を夫が本件調停を申し立てた平成26年2月から月額7万円に減額する。
妻は、自身の手術のための休業による減収分が考慮されていないなどと主張し、上記内容の原審判に対し、即時抗告をした。
高裁決定
審判確定後の事情の変更による婚姻費用分担額の減額は、その審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により、その審判の内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って許される。
本件では、①夫の平成25年分の年収額は、前審判が前提とした年収額よりも約60万円程度減少しているが、その減少率は約12.5%であって、大幅な減少ではない。②妻も、平成26年に手術を受けるなどして体調が十分ではなく、収入が減少していることを裏付ける資料を提出しており、単に平成26年度の市民税・県民税課税証明書(平成25年中の収入を前提とするもの)によるのは相当ではない。③長男(現在22歳)及び二男(現在19歳)に定期的収入があるのか否か、誰と同居して生活しているのかなどが不明であるところ、これらの事情が妻の生活状況や経済状態に大きな影響を与えることは明らかである。④前審判時において、夫の収入の減少がどの程度まで予測されていたのかなどの点も不明である。
そうすると、前審判の後に事情変更があったものとして婚姻費用分担額を減額するについては、未だ十分な審理が尽くされておらず、上記①ないし④について更に審理を尽くすことが必要である。
よって、原審判を取り消したうえで、本件を差し戻す。
解説
一度取り決めた婚姻費用の増減について
継続的な給付を定める婚姻費用分担の審判については、事後的な事情変更は当然に予想され、事情変更があった場合には、それを理由とする取消し又は変更を求めることができます。
もっとも、安易に事情変更を認めて婚姻費用分担額の増減を認めると、当事者双方、特に権利者の生活が不安定なものとなりかねません。
したがって、一度取り決めた婚姻費用分担額の増減が認められるためには、当該算定の基礎となる事情に相当程度の変更が認められることが必要です。当該事情の変更は、取決め当時に当事者が予測し得なかったものでなければなりません。事情変更の具体例としては、(1)夫婦の一方又は双方の収入の増減、大病・けがや再婚等の家庭環境の変動、(2)子の進学等に伴う教育費の増減、(3)物価の大幅な変動や貨幣価値の変動、が挙げられます。
本件について
高等裁判所が言及した①夫の減収、及び②妻の手術やこれに伴う減収は、(1)夫婦の一方又は双方の収入の増減、大病にあたります。③長男及び二男の収入の有無・程度や居住状況は、(1)夫婦の一方(妻)の家庭環境の変動にあたり得ます。④夫の減収に対する予測可能性の有無・程度は、仮に夫の減収という事情変更が相当程度認められる場合に、当事者が当該変更を予測し得たか否かを判断する際に考慮されます。
高等裁判所は、原審判では上記の事情について十分な審理が尽くされていないとして、原審判を取り消したうえで、本件を差し戻しました。