離婚調停が成立すると、裁判所から、調停調書が交付されますが、これには、正本、謄本、抄本があります。これらはどのように違うのでしょうか。
1 原本、正本、謄本、抄本とは?
(1) 原本
原本とは、文書の作成者が、一定の思想内容を表示するために確定的なものとして作成した文書をいいます。具体的には、裁判官が押印したものであり、裁判所で保管されます。
(2) 正本
正本とは、原本に基づいて作成・認証され文書であり、原本と同一の効力をもって通用します。
(3) 謄本
謄本とは、原本の全部を物理的又は電磁的手段等によって写した文書であって、謄本作成者(調停調書の場合は書記官)が、原本の存在及び内容の同一性についての証明を与えた文書をいいます。
(4) 抄本
抄本とは、原本の一部を物理的又は電磁的手段等によって写した文書であって、抄本作成者(調停調書の場合は書記官)が、原本の存在及び内容の同一性についての証明を与えた文書をいいます。「抄本」は、原本の一部の写しである点だけが、「謄本」と異なります。
2 離婚調停調書の内容と正本、謄本、抄本
次の内容の離婚調停が成立したとします。
①申立人と相手方は、本日、調停離婚する。
②申立人と相手方の間の子の親権者を母である申立人と指定する。
③相手方は申立人に対し、未成年の子の養育費として同人が満20歳に達する日の属する月まで毎月末日限り金5万円を支払う。
④年金分割の按分割合を0.5とする。
この場合、申請により、裁判所から交付されるのは、通常、謄本と抄本であり、正本は特に求めない限り交付されません。具体的には次の書類が交付されます。
ア 上記①~④の全てを記載した正本
イ 上記①離婚と②親権者の指定だけをピックアップした抄本
これを市役所に提出して離婚届出を行います。
ウ 上記④年金分割だけをピックアップした抄本
これを年金事務所に提出して年金分割の請求を行います。
3 養育費が支払われなかったときの強制執行はどうする?
問題は、③養育費の支払いが滞った場合です。調停が成立すれば調停調書に基づき相手方の財産に強制執行することができます。例えば、給与の差押です。しかし、強制執行するためには正本が必要であり、謄本しか交付されていなければ、強制執行する時点で、改めて正本を交付してもらう必要があるのです。
なぜ、裁判所は謄本を交付する取扱いなのかわかりませんが、話し合いで決まった内容ですので、直ちに強制執行に至ることはあまりないだろうとの配慮があるのかもしれません。
(弁護士 井上元)