監護権者の指定とはどのような制度なのでしょうか?よく似た用語である親権者の指定との違いは何なのでしょうか?
1 親権の意義
「親権」とは、未成年の子を監護、養育するために父母に認められた権利義務の総称です。
未成年の子は、父母の親権に服します(民法818条1項)。親権は、父母の婚姻中は、原則として共同して行使されます(同条3項本文)。父母が婚姻関係にない場合には、その一方が単独で親権を行使します(同法819条)。
親権の内容は、身上監護権(子の心身の成長のための教育及び養育を中心とする権利義務の総称)と財産保護権に大別されます。身上監護権の内容としては、監護教育権(同法820条)、居所指定権(同法821条)、懲戒権(同法822条)、職業許可権(同法823条)等が挙げられます。財産保護権の内容としては、財産管理権・財産的法律行為の代表権(同法824条)等が挙げられます。
2 監護権の意義
「監護権」とは、「親権」のうち身上監護権のみを指します。
3 監護権者の指定の意義
「監護権」は、本来「親権」の一内容をなすものですが、主に、①離婚に際し、親権者とは別に監護権者を指定する必要がある場合、②離婚後に、監護権者の指定を求める場合、③別居する父母間で、監護権者の指定を求める場合には、監護権と親権とを切り離して、監護権者と親権者を別個に定めることができます。
①の場合や②の場合に親権者とは別に監護権者を定めると、親権と監護権を分属させることとなります。すなわち、親権者は、子の財産保護権を、監護権者は、身上監護権を内容とする独立の権限を有することとなります。しかし、その権能の範囲は、民法では明確ではなく、裁判所は、おおむね親権と監護権の分属には消極的です。
③の場合、別居中であっても婚姻中は、原則として父母の両方に親権があるため、監護権も、父母の両方に帰属しています。そのため、監護権者による監護とは、あくまでも事実上の監護を行うにすぎず、父母の一方が他方に対し、子の監護養育を容認するという意味でしかありません。父母の一方が監護権者となっても、親権を行使するときは、原則のとおり、他方と共同で行使しなければなりません。そうすると、監護権者の指定の意義は乏しいようにも思われます。しかし、別居の場合、父母のどちらかが監護者になるか合意できないために監護者が定まらないときは、父母間で子の取り合いが起き、子を取り巻く環境に悪影響が生じます。共同親権下にあるからこそ、紛争となったときに監護権者指定の実益があるのです。実際、監護権者の指定の事案のほとんどが、③の場合です。
4 子の引渡請求との関係
別居中の父母間で、まだ単独監護権者が定まっていない場合(上記③の場合)に、非監護親から監護権者指定を申し立てる場合には、「子の監護に関する処分」(家事事件手続法39条・別表第2の3の項)の一態様としての子の引渡請求、及び当該請求を本案とする審判前の保全処分としての子の引渡請求(家事事件手続法105条・157条1項3号)と併せて申し立てることが多いです。
父母の別居中に子の引渡しが問題となる場合は、父母双方が親権者であるので、引渡しを求める一方が子の監護権者として適格であることが前提となります。このように引渡請求が併せてなされても、監護権者の指定の際に考慮する事情は、同じです。
5 監護権者指定の手続
監護権者は、父母の協議のみで指定することができます。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときには、家庭裁判所に対し調停又は審判の申立てをすることとなります。
なお、離婚が成立した場合の未成年の子の監護養育については、民法に明文の規定がありますが(同法766条)、別居の場合(上記③の場合)についての明文の規定はありません。しかし、前述のように、別居の場合、監護者が定まらないときは、父母間で子の取り合いが起き、子を取り巻く環境に悪影響が生じます。そのため、大方の実務は、上記③の場合も、①及び②の場合と同様に「子の監護に関する処分」(家事事件手続法39条・別表第2の3の項)の一態様として、監護者の指定を認めています。
また、親権者の指定とは異なり、監護権者の指定は、離婚において必須ではありません。上記②の場合のように、離婚後に、監護権者の指定の手続をとることもできます。
(東京弁護士会法友全期会家族法研究会『離婚・離縁事件実務マニュアル(第3版)』89、90、150、151頁(ぎょうせい)、二宮周平、榊原富士子『離婚判例ガイド(第3版)』189~192頁(有斐閣)、梶村太市『実務講座家事事件法』176頁(日本加除出版株式会社)、判例タイムズ1100号182頁参照)