親権者変更の審判手続で行われる子の陳述聴取とは何か?

1 親権者変更の手続等について

親権者の指定

 父母の婚姻中は、原則として、未成年者である子の親権が共同で行使されますが、

①父母が協議上の離婚をするとき

②子の出生前に父母が離婚した場合、子の出生後に父を親権者と定めるとき

③父が認知した子に対する親権者を父と定めるとき

には、親権者は父母の協議で決定されます(民法819条1項、3項、4項)。これらの協議が調わないとき、又は協議をすることができないときには、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができます(同条5項)。

 また、父母が裁判上の離婚をするときには、裁判所が、父母の一方を親権者と定めます(同条2項)。

親権者の変更

 上記の親権者の指定後に、親権者を変更したいと考えた子の「親族」(民法725条)は、子の住所地を管轄する家庭裁判所に、親権者変更の調停又は審判を申し立てることができます。家庭裁判所は、当該親族の請求を受けて、「子の利益のため必要があると認めるとき」は、親権者を他の一方に変更することができます(民法819条6項、家事事件手続法244条、別表第2・8項)。

 このように、親権者の変更は、親権者の指定と異なり、父母間の単なる協議では行うことができず、必ず家庭裁判所の調停又は審判によらなければなりません。調停を申し立てた場合、調停が成立しなければ審判へ移行します(家事事件手続法272条4項)(増田勝久ほか『Q&A家事事件手続法と弁護士実務』231頁、232頁(日本加除出版)、東京弁護士会法友全期会家族法研究会『離婚・離縁事件実務マニュアル(第3版)』229頁(ぎょうせい)参照)。

2 親権者変更の判断基準について

 親権者変更の判断基準は、「子の利益のため必要があると認めるとき」です。

 どのような場合に、親権者を子の利益のために変更する必要があるかについては、家庭裁判所の裁判官の判断に委ねられています。具体的には、監護態勢の優劣、父母の監護意思、監護の継続性、子の希望、子の年齢、親権者の再婚、申立ての動機や目的、子の引渡訴訟の結果等が考慮されています。

 ただ、親権者の指定はある程度将来の事情を予測して決定したものであるし、安定した人間関係・環境の下で継続的に養育されることが子の福祉にかなうことから、親権者の指定の後に生じた「事情の変更」が必要であるとされ、著しい事情の変更が認められない場合には、親権者変更の申立ては却下されます(東京高裁昭和31年9月21日決定(家月8巻11号37頁)参照)(二宮周平、榊原富士子『離婚判例ガイド(第3版)』207頁、208頁(有斐閣)、東京弁護士会法友全期会家族法研究会・前掲230頁参照)。

3 子の陳述の聴取について

子が15歳以上であるとき

 親権者の変更の審判をする場合、家庭裁判所は、当事者の陳述を聴くほか、未成年者である子が15歳以上であるときは、必ず子の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法169条2項)。当該陳述は、親権者変更の重要な判断材料となります。

 ここでいう陳述の聴取とは、子から言語的表現による認識や意向等を聴取することをいいますが、その方法については特に制限はなく、裁判官の審問によるほか、家庭裁判所調査官による調査、書面照会等の方法が考えられます。

子が15歳未満であるとき

 子が15歳未満である場合、陳述の聴取は義務付けられていません。

 ただ、家庭裁判所は、適切な方法により、子の意思を把握するよう努め、審判の際に、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければなりません(同法65条)。

 子の意思を把握するためにどのような方法をとるのが適切であるのかは、家庭裁判所の判断に委ねられています。例えば、家庭裁判所は、子の年齢及び発達の程度を考慮した上で子が自らの認識や意向等を言語的に表現することが十分にできると考える場合には、子が15歳以上である場合と同様に、裁判官の審問や家庭裁判所調査官による調査等の方法によって子の陳述を聴取することができます。一方、そのような発達程度に達していないと考える場合には、家庭裁判所は、家庭裁判所調査官を利用するなどして子の態度や生活状況等を的確に調査し、子の認識や意向等を把握することとなります。

 特に15歳未満の子については、子の意向の調査は慎重であるべきだとされています。なぜなら、子は、その意向を表明することで父母のいずれかを裏切ることになるとして、これを何とか避けたいといういわゆる忠誠葛藤に陥りやすく、このような子の心情を傷つける結果にならないように十分留意することが必要であるからです(金子修『逐条解説・家事事件手続法』222頁~225頁、550頁~554頁(商事法務)、岡健太郎、秋武憲一『離婚調停・離婚訴訟(改訂版)』73頁(青林書院)、増田ほか・前掲233頁、東京弁護士会法友全期会家族法研究会・前掲230頁参照)。