子供名義の財産は財産分与の対象となるか?
離婚における財産分与が争われる際、夫から、子供名義の預金などの財産が財産分与の対象となると主張されることがあります。夫の目には、妻が子供名義で預金等をすることで財産の隠匿を図っているように見えるようです。
しかし、夫が、子供名義の預金等が借名名義であることが具体的に立証しない限り、子供の財産として夫婦の財産分与の対象とはなりません。
この点、大阪高裁平成26年3月13日判決は「夫は、長男及び二男の預金の原資がお食い初め等でもらったものであるとの妻の主張には無理があり、同貯金は婚姻共同財産に含まれる旨主張する。しかしながら、夫が非常に経済的に余裕のある医師であること、並びに、贈与と表現するかどうかはともかく、世上、預金返還請求権を名実ともに子に帰属させる趣旨で贈与税の課税限度額を超えない範囲で子名義の預金を開設することもよくあることを考慮すると、当該預金が借名預金であることが具体的に立証されない限り、子名義の預金が婚姻共同財産の一つとして財産分与の対象財産になるものとはいえないものと解するのが相当であるところ、本件においては、長男及び二男名義の預金が借名預金であることが具体的に立証されているとはいえない。したがって、夫の上記主張は、採用することができない。」と判示しているところです。
財産分与の対象となると思われる具体的ケース
それでは、どのような場合に子供の名義の「借名」とみなされるのでしょうか?考えられるケースを掲げてみましょう。
①夫婦の総財産と比較して、子供名義の財産が明らかに過大な額である場合
ただし、夫の了解のもと子供に贈与された場合や妻の実家から贈与されたようには場合は別です。
②離婚の危機が生じた前後に多額の財産が子供名義に移転されている場合
裁判所が諸般の事情を考慮して財産分与の対象とできるか?
子供名義の財産が夫婦間における財産分与の対象となるか否かについては上記のとおりですが、裁判例を見ていますと、安易に、財産分与の対象としたり、逆に、対象としなかったりするものが散見されます。
財産分与に関する民法768条3項で「・・・家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」と規定されており、財産分与については裁判所の大幅な裁量が認められていることが理由なのかもしれません。
しかし、子供も独立した人格である以上、当該子供名義の財産が子供の固有資産と認められるのであれば、財産分与とは切り離して考えるべきでしょう。
(弁護士 井上元)