話題の判決とは?
『銀座のクラブママが夫に「枕営業」妻の賠償請求を棄却』というマスコミ報道が世間を賑わしています。
この判決の出典はどこかというと、判例タイムズ1411号(2015年6月号)で東京地裁平成26年4月14日判決が掲載されたのです(同誌312頁)。
判決文の詳細は同誌を参照いただきたいと思いますが、核心部分は「そうすると、クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」というものです。
上記判決の特異性
1 上記事案では、原告の妻は弁護士を代理人として訴訟を提起していますが、一方、被告女性は弁護士を選任せず本人訴訟でした。したがって、おそらく、被告としては、十分な訴訟活動はできていないと思われます。
2 被告女性は、不貞行為自体を認めておらず、判決も、被告女性が不貞行為の相手方だとは確定的には認定していません。
3 しかし、判決は、上記のように一般論として、枕営業は不法行為を構成しないとして、原告の請求を棄却してしまったのです。
コメント
最高裁判例は、不貞行為を行った相手方に対する損害賠償請求を認めていますが、学説では、悪いのは不貞行為を行った配偶者なのだから相手方に対する損害賠償請求が認められるべきではないとの見解も有力です。
上記判決の裁判官は、不貞行為の相手方に対する損害賠償請求は認められるべきではないと考えているものの、正面切ってそのように判示すると最高裁判例に反するため、上記のような論法を採用した可能性もありますが、判決文を読む限り、本当に判決文のように考えているのでしょう。
しかし、私としては、この判決はちょっとずれているんじゃないの?と思いますが、皆さんはどう思われますか?
ちなみに、原告が、不貞慰謝料に関して引用した昭和54年最判及び平成8年最判につき、判決では、わざわざ「なお、原告は、上記各最判の出典として、判例タイムズしか挙げていないが、両最判は、いずれも、最高裁判所民事判例集に搭載されている正式の判例である」と書いており、何だかなあという感じです。判例タイムズにしか搭載されていなければ「正式の」判例ではないのでしょうか?
尚、上記判決に対し、原告は控訴しなかったため確定しています。
(弁護士 井上元)