海外駐在給与が基礎収入に加算されるか?
夫の給与収入が年1254万円であり、別途、海外駐在給与として年566万円支給されているところ、妻から夫に対し、婚姻費用分担請求がなされ、裁判所が判断した事案があります。
原審の横浜家裁は、海外駐在給与は海外勤務終了までの数年間の加給に過ぎないから婚姻費用算定のための基礎収入には加えないと判断しました。
これに対し、妻が抗告したところ、東京高裁は海外駐在給与を収入に含めるとの判断をしました。
東京高裁平成26年6月3日決定・判例タイムズ1410号111頁
判旨は次のとおりです。尚、相手方を夫、抗告人を妻と読み替えます。
「夫が取得する海外駐在給与は、年間約566万円の収入の増加になり、夫が○○国に赴任している間は支給されるものであるところ、その赴任期間は4ないし5年程度が予定されている(現在、既に3年半が経過している。)のであるから、この海外駐在給与は、その額及び支給期間に照らすと、単なる一時的な所得に止まるものではないと解するのが相当である。もとより、夫の○○国勤務が終了すればその支給もなくなることが想定されるから、その際には婚姻費用の分担金の減額も検討する余地が生じることになるというべきであるが、現時点ではなお相当の期間にわたりその支給が予定されている以上、婚姻費用分担金の算定に当たっては相手方の収入にこの海外駐在給与を加算するのが相当である。」
夫による住宅ローンの負担
また、上記事案では、妻は夫が住宅ローンを負担している自宅に居住しているところ、夫は、その負担分を婚姻費用の分担額から控除すべきであると主張し、これに対し、高裁決定は次のように判断しています。
「住宅ローンの負担には資産形成の側面もあるから、その負担分を婚姻費用の分担額から控除すべきであるとの相手方の主張は採用できないものの、これにより妻は、住居費の負担を免れていることになるから、妻の収入に対応する平均的な住居関係費として3万円を上記婚姻費用の相当額から控除する」
(弁護士 井上元)