離婚前の共有物分割請求は認められるか?
離婚前の共有物分割が認められるか否かについて、コラム居住用不動産の共有物分割と離婚財産分与で解説していますが、最近、東京高等裁判所が判断した事例がありますのでご紹介しましょう。
東京高裁平成26年8月21日判決
【事案の概要】
平成12年 婚姻
平成20年 建物建築(夫の持分6/7、妻の持分1/7)
平成22年 夫の不貞発覚
平成25年 別居
〃 妻が同居調停を、夫が離婚調停を申立て
平成26年 夫が妻に対し共有物分割請求訴訟を提起
【判決】
夫の請求が権利濫用に当たるか否かが争点となり、この点、裁判所は次のように判断しました。
「3 権利濫用の成否の判断
(1)民法258条に基づく共有者の他の共有者に対する共有物分割権の行使が権利の濫用に当たるか否かは、当該共有関係の目的、性質、当該共有者間の身分関係及び権利義務関係等を考察した上、共有物分割権の行使が実現されることによって行使者が受ける利益と行使される者が受ける不利益等の客観的事情のほか、共有物分割を求める者の意図とこれを拒む者の意図等の主観的事情をも考慮して判断するのが相当であり(最高裁判所平成7年3月28日第三小法廷判決・裁判集民事174号903頁参照)、これらの諸事情を総合考慮して、その共有物分割権の行使の実現が著しく不合理であり、行使される者にとって甚だ酷であると認められる場合には権利濫用として許されないと解するのが相当である。
(2) 以上の観点により本件を検討すると、夫が共有物分割を請求する本件建物は、夫と妻の夫婦がその婚姻中に夫婦の共同生活及び子らの監護養育の本拠となる自宅として共同で建築し、夫と妻の共有名義で所有権保存登記がされて所有権を取得したもので、夫婦の婚姻中に形成された夫婦の実質的共有財産に該当するものであり、現に妻が自宅として子らと居住してきているのであって、将来、夫と妻との離婚の場合には、夫婦の共有財産に係る財産分与の対象とされて分与の方法等を当事者間で協議し、その協議が整わないときに裁判所による協議に代わる処分として分与の方法等が定められるべきものである(民法768条1項、2項)。
そもそも、夫は離婚調停を申し立てたが、同調停が係属していて離婚は成立しておらず、現に夫と妻との婚姻関係は継続しているのであるから、本来、夫には、配偶者である妻に対して同居・協力・扶助の義務(民法752条)を負担しており、その義務の一環として妻及び子らの居所を確保することも夫の義務に属するものというべきであり、夫は妻が本件建物を住居として継続して使用することを許容すべきであると解される。
しかるに、夫は、本件建物から転居して別居を開始し、妻を相手方とする離婚調停手続と平行して本件建物の共有物分割請求及び本件建物の明渡しの請求をするに至ったものである。妻は、これによる心痛によって精神疾患に罹患して現在通院せざるを得ない負担を負い、また過重の労働をしながら子らと3人で本件建物に居住することによってようやく現在の家計を維持している状況にある(認定事実(8))。
上記の民法752条所定の義務に基づく配偶者に対する居所の確保義務に加えて、夫は、妻との間で、子らが27歳に達する平成43年まで妻が無償で本件建物に居住することを合意しており(認定事実(3))、更に夫と妻との間で成立した婚姻費用分担調停における調停条項において、婚姻解消するまでの間、妻が本件建物に無償で居住することを前提として夫が妻に対して支払う婚姻費用分担額が定められ、夫が本件建物の住宅ローン及び水道光熱費等を引き続き負担することを確認する合意がされているのであって(認定事実(6))、夫による婚姻解消前の本件建物の共有物分割請求及び本件建物の明渡しの請求は、上記の各合意の履行とは相反し、これを覆すものといわざるを得ない。
さらに、妻と子らは、本件建物を家庭生活の本拠として継続して生活し、本件建物は就学時期にある子らの通学及び通院の拠点となり、本件建物を本拠とする妻の子らに対する良好な監護養育環境が整っている(認定事実(8))にもかかわらず、妻との離婚協議が整わないまま夫の本件建物の共有分割請求及び本件建物の明渡しの請求が実現され、妻と子らが妻による監護養育の現状の継続を望むときは子らと共に退去を余儀なくされるとすれば、妻及び子らの生活環境を根本から覆し、また、現在の家計の維持を困難とすることになるのであって、妻及び子らが被る不利益は大きいものといわざるを得ない。
他方、夫は、現在もその生活状況に格段の支障はなく(認定事実(9))、本件全証拠によっても、本件建物の共有物分割請求を実現しないと夫の生活が困窮することは認めることができない。
これらの事情に加えて、認定事実によれば、夫は有責配偶者であると認められ(この認定に反する的確な証拠はない。)、有責配偶者である夫の請求によって離婚前に夫婦の共有財産に該当する本件建物に係る共有物分割を実現させて夫の単独所有として妻に本件建物の明渡しを命じ、離婚に際しての財産分与による夫婦の共有財産の清算、離婚後の扶養及び離婚に伴う慰謝料等と分離し、これらの処分に先行して十分な財産的手当のないままに妻及び子らの生活の本拠を失わせ、生計をより困難に至らしめることは、正義・公平の理念に反し、また、有責配偶者からの離婚請求が許される場合を限定して解すべき趣旨に悖るというべきである。
以上に説示した本件建物に係る共有関係の目的、性質、夫と妻の身分関係及び権利義務関係等を考察し、夫と妻のそれぞれに係る客観的、主観的事情を総合考慮すれば、夫の妻に対する本件建物に係る共有物分割等の請求は、著しく不合理であり、妻である妻にとって甚だ酷であるといわざるを得ないから、権利濫用に当たり許されないと解するのが相当である。」
コメント
上記事案では、夫の持分が6/7、妻の持分が1/7として登記されていますが、これは、建物建築時に拠出された資金として、夫の固有資産、妻の固有財産、結婚後の蓄え、夫名義のローンがあることから決められたものと思われます。そうすると、離婚の際の財産分与として清算されるべきであり、共有物分割請求は認められないと解される余地もあります。この点、上記東京高裁判決は、権利濫用という法律構成で夫からの請求を認めませんでした。権利濫用という構成で判断される以上、状況によっては離婚前であっても共有物分割請求が認められる可能性はあるということです。
(弁護士 井上元)