生物学上の父子関係が認められない場合と親子関係不存在確認の訴え

 DNA鑑定により父子関係が存しないことが明らかであるにもかかわらず、嫡出推定の規定により戸籍上父子とされた場合、親子関係不存在確認の訴えを提起して父子関係が存在しないことの確認を求めることができるのでしょうか?

 マスコミでも大きく話題になっていた事案につき、最高裁第1小法廷平成26年7月17日判決(平成25年(受)第233号)は次のような判断を下しました。

① 民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる。

② そして、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように解すると、法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが、同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。

③ もっとも、民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法774条以下の規定にかかわらず、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である。

④ しかしながら、本件においては、甲が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。

 小法廷は5人の裁判官の多数決により決められますが、上記判決には2名の反対意見が付されており、3対2という微妙なところで決まっています。

 血縁関係=法律上の親子関係とは限りませんが、親子とは何かについて考えさせられる判決です。

(弁護士 井上元)