DV被害者からの再度の退去命令申立を認めた福岡高裁平成25.9.19決定

 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)による保護命令のうちの一つとして、相手方に対する2ヶ月間の退去命令があります(10条1項2号「命令の効力が生じた日から起算して二月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないこと。」)。

 退去命令は、身辺整理、転居先等の確保を行うためのものであり、当初は2週間とされていましたが、これでは十分ではないとして、平成16年改正により2ヶ月に伸長されました。

 また、再度の申立ては認められていませんでしたが、再度の申立ても認められました(18条)。

 再度の退去命令は無制限に認められるのではなく、「配偶者と共に生活の本拠としている住居から転居しようとする被害者がその責めに帰することのできない事由により当該発せられた命令の効力が生ずる日から起算して二月を経過する日までに当該住居からの転居を完了することができないことその他の同号の規定による命令を再度発する必要があると認めるべき事情があるときに限り」認められ(18条1項本文)、「ただし、当該命令を発することにより当該配偶者の生活に特に著しい支障を生ずると認めるときは、当該命令を発しないことができる。」とされています(18条1項ただし書)。

 この退去命令の再度の申立てを認めた福岡高裁平成25年9月19日決定をご紹介します。

福岡高裁平成25年9月19日決定

事案の概要

 Xは、婚姻関係にあるYから暴力を受けていたなどとする配偶者暴力に関する保護命令を申し立て、Yに対する退去命令を含む保護命令が発令される中で住所地に戻って生活していたものの、その効力が生じた日から起算して2ヶ月を経過した後も転居しないでいたところ、Yに対する再度の退去命令の発令を求めて申し立てました。

 原決定は申立を認めませんでしたので、Xが抗告しました。

決定の内容

 高裁決定は、次のとおり述べて、Xの申立てを認めました。

「Xは、躁うつ病を患い、平成25年○月○○日には、大分県から、障害等級2級「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令6条3項)と認定され、障害者手帳の交付を受けたこと、Xは、その日常生活において常時援助を必要とし、憂うつ気分、精神運動制止、不安、焦燥感、不眠、希死念慮などの抑うつ症状と、多弁、多動、高揚気分などの躁症状が交代して出現していること、Xは、前件退去命令発令後しばらくして肩書住所地に戻ったが、頼れる親族等がいないため、大分県婦人相談所及び福祉施設関係者(以下「福祉関係者」という。)の支援を得て、転居先の検討をしたこと、Xは、グループホームへの入居を希望し、福祉関係者もXの躁うつ病の状態等の心身の状況から、単身、民間の賃貸住宅で生活することは困難であり、グループホームへの入居が望ましいと考え、該当する施設を探したこと、しかし、保証人を不要とし、直ちに入居できる施設が容易には見つからず、前件退去命令の効力が生じた日から起算して2か月を経過した平成25年○月になって、入居の許可が得られる施設が見つかり、原則として男性のみが入居する施設ではあったものの、Xは同施設への入居を希望し、入居の準備が整ったこと、Xが転居の準備を行うには相当程度の時間を要することが認められる。

 この事実関係の下で、本件申立てについて、Xに帰責性がなかったかをみると、Xがグループホームへの入居を希望し、該当する施設を探し、入居の許可を得るまでに2か月以上の時間を要したことは、Xの心身の状況からすれば、帰責性がなかったものと認めるのが相当である。なお、相手方は、住居に当面接近しないことを誓っているが、一件記録によれば、相手方には、保護命令に反した行動があるので、再度、退去命令を発令する必要性があるといえる。次に、相手方は、退去命令により、余所での生活を余儀なくされることとなるが、その収入や稼働状況、生活状況等に照らして、特に著しい支障を生ずる(法18条1項ただし書)とは認め難い。

 そして、上記のとおり、相手方には保護命令に反した行動があるので、法10条1項に定める「配偶者からの更なる身体に対する暴力」により「その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」ことも認められる。

 以上によれば、本件申立ては、理由があると認めるのが相当である。」

コメント

 相手方に対する退去命令は、申立人が身辺整理、転居先等の確保を行うためのものであり、永続的に居住させるものではなく、期間は2ヶ月とされています。この間に、申立人は転居先を探して転居を完了する必要があるのです。

 しかし、「再度発する必要があると認めるべき事情があるとき」で、「当該命令を発することにより当該配偶者の生活に特に著しい支障を生ずると認めるとき」でなければ、再度の退去命令が発せられることもあり、上記福岡高裁決定はこれを認めたものとして参考になります。

(弁護士 井上元)