祖母の孫の監護者指定申立に関する最高裁令和3年3月29日決定

父母以外の第三者(祖父母など)に子の監護者指定を求める権利が認められるか否か争いがありましたが、最高裁判所はこれを否定しました。

重要な決定であり全文をご紹介します。

最高裁令和3年3月29日決定(令和2年(許)第14号)・裁判所HP

事案の概要

1本件は、子Aの祖母が、子Aの実母である母及び養親相手方として、家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分として子Aの監護をすべき者を定める審判を申し立てた事案である。

2記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。

⑴ 母と前夫は、平成21年12月、子Aをもうけたが、平成22年2月、子Aの親権者を母と定めて離婚した。

⑵ 母及び子Aは、平成21年12月、母の母である祖母と祖母宅で同居するようになり、以後、母と祖母が子Aを監護していた。

⑶ 母は、平成29年8月頃、子Aを祖母宅に残したまま、祖母宅を出て養親と同居するようになり、以後、祖母が単独で子Aを監護している。

⑷ 母と養親は、平成30年3月に婚姻し、その際、養親は、子Aと養子縁組をした。

原審

原審は、要旨次のとおり判断して、子Aの監護をすべき者を祖母と指定すべきものとした。

子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることができると解すべきである。祖母は、事実上子Aを監護してきた祖母として、子Aの監護をすべき者を定める審判を申し立てることができる。

最高裁の判断

しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

⑴ 民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他の子の監護について必要な事項は、父母が協議をして定めるものとしている。そして、これを受けて同条2項が「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と規定していることからすれば、同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。

他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、上記の申立てについて、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。なお、子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照)、このことは、上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない。

以上によれば、民法766条の適用又は類推適用により、上記第三者が上記の申立てをすることができると解することはできず、他にそのように解すべき法令上の根拠も存しない。

したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。

⑵ これを本件についてみると、祖母は、事実上子Aを監護してきた者であるが、子Aの父母ではないから、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子Aの監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできない。したがって、祖母の本件申立ては、不適法というべきである。

(弁護士 井上元)