婚約者と関係を持った相手方に対する慰謝料請求を認めた大阪高判昭和53.10.5

 婚姻関係にある夫婦の一方が不貞を行った場合、妻なら不貞相手の女性に対し、夫なら不貞相手の男性に対し、慰謝料請求できるというのが確定した判例です。

 婚約中、婚約相手と関係した男性もしくは女性に対し、慰謝料請求できるかどうかにつき、大阪高裁昭和53年10月5日判決が判断していますのでご紹介します。

大阪高裁昭和53年10月5日判決

 判決は、次のように判示して慰謝料50万円を認めました。

「思うに、婚約当事者は互いに一定期間の交際をした後婚姻をして法律、風俗、習慣に従い終生夫婦とし共同生活することを期待すべき地位に立つ。婚約は将来婚姻をしようとする当事者の合意であり、婚約当事者は互いに誠意をもつて交際し、婚姻を成立させるよう努力すべき義務があり(この意味では貞操を守る義務をも負っている。)、正当の理由のない限りこれを破棄することはできない。婚姻はその届出と届出時における真意に基づく婚姻意思の合致によって、成立するから、婚約当事者の一方が婚姻意思を失ない、婚約を破棄したときは、他方は婚約の履行として届出を強制することはできず、正当の理由がなく婚約を破棄した者に損害賠償を請求しうるにすぎない。しかし、その故をもって婚約は何らの法的拘束力を有しないということはできない。そして、婚約当事者が合意に従い、合意の通常の発展として婚姻した場合に終生夫婦として共同生活を続けるべき義務のあることは疑問のないところであるから、婚約当事者の前記地位は法の保護に値いするというべきであり、これを違法に侵害した者は損害賠償義務を負うといわなければならない。

 ところで、婚約当事者の一方及びこれと意を通じまたはこれに加担した第三者の違法な行為によって婚約当事者の他方が婚約の解消を余儀なくされ、あるいは婚姻をするには至ったものの、これを解消するのやむなきに至った場合はもとより、解消に至らず婚姻を継続している場合でも、少なくとも婚約の破棄あるいは離婚するについて正当な事由があって、婚約あるいは婚姻関係が円満を欠き、その存続が危ぶまれる状態(婚姻破綻のおそれ)に至った場合にも婚約当事者の有する前記法的地位の侵害があると解するのが相当である。つまり、婚約当事者は、婚約の通常の発展としての、将来の婚姻成立後の夫婦の地位(いわば将来の権利)についても、法の保護を受けることができるものというべく、婚約期間中、その当事者の一方または双方に対し、将来の婚姻の破綻を生じさせるような原因を与える第三者の行為は、法の容認しない違法なものといわねばならない。」

コメント

 婚約者が婚約中に他の異性と関係を持った場合の慰謝料請求については前例が乏しいところであり、上記裁判例を参考にしてください。

(弁護士 井上元)