別居期間4年10月で婚姻関係破綻を認めた東京高判平成28.5.25

 裁判で離婚が認められる事由は、民法770条1項で次の5つが規定されています。

①配偶者の不貞

②配偶者から悪意で遺棄されたとき

③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき

④配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき

⑤その他婚姻を継続し難い事由があるとき

 実務上、主張されることが多いのは、①の「配偶者の不貞」と⑤の「その他婚姻を継続し難い事由があるとき」であり、特に、⑤の「その他婚姻を継続し難い事由があるとき」が最も争点となることが多いものです。

 「その他婚姻を継続し難い事由があるとき」としては、配偶者の暴力・暴言など相手方配偶者に有責性が存する事由もありますが、問題なのは、「婚姻関係の破綻」です。

 「婚姻関係の破綻」が認められる事由として典型的なのが「別居」です。別居期間が一定期間存すると、「婚姻関係の破綻」が認定されて離婚が認められるのです。

 「別居」と「婚姻関係の破綻」について判断した裁判例として東京高裁平成28年月25日判決がありますのでご紹介します。

東京高裁平成28年5月25日判決

事案の概要

① 妻と夫とは、平成14年に婚姻した。

② 平成18年頃からは言い争うことが増えた。

③ 妻は、夫の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり、平成23頃から神経科を受診し始めた。

④ 平成23年、長男が所在不明となる出来事を契機に、その際の夫の対応に失望した妻が長男を連れて本件別居に至った。

⑤ 妻は、夫による暴言や暴力等により全般性不安障害に陥り、別居に至ったことから婚姻関係は破綻しているなどと主張し、離婚及び離婚慰謝料を求める訴訟を提起した。

原審の内容

 妻が婚姻関係破綻の原因として主張する事実は、その存在自体が認められないか、存在するとしても、性格・考え方の違いや感情・言葉の行き違いに端を発するもので、夫のみが責を負うものではなく、妻の言動にも問題があること、夫の同居中の言動には相互理解の姿勢に乏しいものがあったが、夫は真摯に反省し、妻との修復を強く望んでいること、同居期間(約10年間)に比べて別居期間(約3年5か月間)は短いなどとして、離婚請求等をいずれも棄却した。

高裁判決の内容

 高裁は次のように述べて、妻の離婚請求を認めました。

「妻と夫とは、平成14年○月に婚姻し、その後同居生活を続けたものの、遅くとも平成18年○月頃からは言い争うことが増えたこと、その後、妻は、夫の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり、平成23年○月頃から神経科を受診し始めたこと、そのような中、同年○月、長男が所在不明となる出来事を契機に、その際の夫の対応に失望した妻が長男を連れて本件別居に至ったことを認めることができる。以上のとおり、本件別居の期間は、現在まで4年10か月間余りと長期にわたっており、本件別居について夫に一方的な責任があることを認めるに足りる的確な証拠はないものの、上記のとおりの別居期間の長さは、それ自体として、妻と夫との婚姻関係の破綻を基礎づける事情といえる。」

「また、・・・・・妻は、本件別居後、一貫して夫との離婚を求め続けており、原審における妻本人尋問においても離婚を求める意思を明らかにした。」

「他方、夫は、原審における夫本人尋問において、妻との関係修復の努力をするとの趣旨の供述をしたが、本件別居後、夫が、婚姻関係の修復に向けた具体的な行動ないし努力をした形跡はうかがわれず、かえって、前記認定事実のとおり、別件婚費分担審判により命じられた婚姻費用分担金の支払を十分にしないなど、夫が婚姻関係の修復に向けた意思を有していることに疑念を抱かせるような事情を認めることができる。」

「以上のとおり、別居期間が長期に及んでおり、その間、夫により修復に向けた具体的な働き掛けがあったことがうかがわれない上、妻の離婚意思は強固であり、夫の修復意思が強いものであるとはいい難いことからすると、妻と夫との婚姻関係は、既に破綻しており回復の見込みがないと認めるべきであって、この認定判断を左右する事情を認めるに足りる的確な証拠はない。」

コメント

 高裁判決は、別居期間だけではなく、①別居前から夫婦の関係は悪化していたこと、②妻の離婚意思が固いこと、③夫の修復意思に疑念があること、も「婚姻関係の破綻」を認定する事情としています。

 ただし、4年10か月余りの別居が「それ自体として、妻と夫との婚姻関係の破綻を基礎づける事情といえる」と判示していることは重要です。

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(弁護士 井上元)