有責配偶者である妻からの離婚請求を認めた東京高裁平成26年6月12日判決

1 有責配偶者からの離婚請求についての最高裁判例の変遷

 自分が浮気するなどして婚姻関係を破綻させた配偶者からの離婚請求につき、最高裁昭和27年2月19日判決は、「夫が勝手に情婦を持ち、その為最早妻とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであって、もしかかる請求が是認されるならば、妻は全く俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気侭を許すものではない。」として浮気をした夫からの離婚請求を認めず、最高裁昭和38年6月7日判決も「婚姻関係が破綻した場合においても、その破綻につきもっぱら又は主として原因を与えた当事者は、自ら離婚の請求をなしえないものと解するのを相当とする」としました。

 ところが、最高裁昭和62年9月2日判決は、上記判例法理を修正し、①相当期間の別居、②未成熟子の不存在、③残された配偶者の苛酷な状態の不存在の場合であれば、有責配偶者からの離婚請求も認められるとしたのです。

2 東京高裁平成26年6月12日判決

 このような中、東京高裁平成26年6月12日判決は、別居期間が1年半程にしか過ぎず、かつ、未成熟子が存する事案で、有責配偶者と認定された妻からの離婚請求を認めました。

 その理由は、①有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由は一家の収入を支えてきた夫が妻以外の女性と不貞関係に及んで別居状態となり、残された妻子が安定的な収入を絶たれて経済的に不安定な状態に追い込まれ、著しく社会正義に反する結果となることであったが、本件ではそのような状況ではないこと、②夫にも婚姻関係破綻についての原因があること、③未成熟子の養育監護に特に問題はないこと、④離婚請求を認めても夫が精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至ることはないこと、などです。

3 有責配偶者からの離婚請求がどこまで緩やかに認められるのか?

 有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた理由は、「自分が浮気をして夫婦関係が破綻したから離婚させてくれって、それはないんじゃない?」ということだと思います。

 これに対し、上記最高裁昭和62年9月2日判決は、離婚を認めることによる不正義と破綻している夫婦の戸籍上の婚姻関係を維持すべきか否かという問題を、3要件をもってバランスをとったものでしょう。

 上記東京高裁平成26年6月12日判決は比較的緩やかに離婚請求を認めたものですが、今後の裁判例の展開について注意を要するところです。

(弁護士 井上元)