離婚の際、例えば、夫婦の財産が夫名義で形成されているような多くの事案では、妻は夫に対し、財産分与の請求をすることができます。
通常、離婚と一緒に請求しますので、離婚調停や離婚訴訟で財産分与が決まることが多いようです。
しかし、財産分与でもめると長期化することもあるため、早期に離婚だけでもしたい場合は財産分与を決めないで離婚を先行させることもあります。
この場合、離婚後でも財産分与の請求をすることができますが、離婚から2年内に行使しなければなりません(民法768条2項)。
この2年は消滅時効期間ではなく、除斥期間と解されています。
消滅時効は、一定期間権利が行使されなかったことによりその権利が消滅するという制度であり、(1)永続した事実状態の尊重、(2)権利の上に眠る者は保護しない、などの趣旨です。
これに対し、除斥期間は権利を行使すべき確定期間であり、その趣旨は権利関係の早期安定です。
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行することに対し(民法166条1項)、除斥期間は、法律関係の早期安定のため一律に権利の発生時から算定されますので注意が必要です。
この点につき、仙台家庭裁判所平成16年10月1日審判(家庭裁判月報57巻6号158頁)は次のとおり判示しています。
「離婚後の財産関係はできるだけ速やかに確定されるべきものであるから、財産分与請求権の行使期間についてもその趣旨に則った解釈をすべきである。また、そもそも財産分与請求権は、離婚の効果として当然に発生するものの、その具体的内容の確定は当事者間の協議又は調停、審判等の裁判上の処分によって形成的になされる性質のものであるから、その期間内に行使されることによって目的を達して消滅し、仮にその期間内に行使されなければ以後行使し得ないものとして消滅するものと解すべきであり、翻って、このような性質を有する権利の行使期間について、中断を認める時効期間と解する必要はない。したがって、財産分与請求権の行使期間は除斥期間と解すべきであり、これを消滅時効期間と解する申立人の主張は、前提において失当であるといわざるを得ない(除斥期間についても期間の進行の停止が考えられなくはないが、不可抗力等の特段の事情がある場合に限られると解すべきであり、本件においてそのような事情は認められない。)。」
(弁護士 井上元)