夫が他の女性と不貞を行った場合、妻は相手方女性に対して慰謝料を請求できますが、その請求権は損害賠償請求が可能な程度に事実関係を知ってから3年で消滅時効にかかります。
この消滅時効の起算点につき東京地裁昭和56年1月28日判決(判例タイムズ452号131頁)が具体的に判示していますのでご紹介しましょう。
【事案の概要】
- 妻は、夫が仕事の関係で出張が多いため、同人の外泊について最初は疑いを持っていなかったが、昭和41年頃から夫が芸者と関係を持っているのではないかという疑問を持ち、夫を追及したが、夫はこれを否定していた。
- 昭和45年頃、夫がそれまで勤めていた会社を退職した際の退職金の金額が少ないため、妻は夫が女性に金をやったのではないかと疑いをもったことがある。
- 夫婦は夫の退職後東京から青森県に転居したが、妻は、夫が毎月定期的に東京へ行ったり、夫の上京の際使途不明の出金があったり、女性名義の領収書や女性宛の銀行振込用紙を発見したことから、女性と夫との関係が継続していることを確信していたが、夫が否定するため、それ以上深く追及することなく、特に調査をするということはなかった。
- そのころ、夫は、青森においても他の女と関係があったが、それについても、妻に対し否定していた。
- 夫は昭和50年夏頃行方不明となった。
- 妻は、夫に対する離婚調停のため、昭和50年11月頃夫の戸籍謄本を取り寄せたところ、女性の子に対する認知届の記載を発見した。
このような事案において、判決は「妻が、前記認知届の記載を発見するまでは、夫と女性との間に不貞関係があるのではないかとの疑いを持ち続けていた事実が認められるほかに、女性に対する賠償請求が可能な程度に女性と妻との不貞行為に関する客観的事実の認識を持ったと窺われる事実を認定することはできない」として、消滅時効を認めませんでした。
(弁護士 井上元)