夫が経営者である場合の婚姻費用分担額算定につき那覇家庭裁判所平成16年9月21日審判(家庭裁判月報57巻12号72頁)が興味深い判断をしていますのでご紹介します。
事案の内容は次のとおりです。
- 歯科医師の夫が医療法人を設立して医療法人の代表者である理事長兼院長として稼働していた。
- 同医療法人は、妻に対し、設立当初から理事としての報酬(専従者給与)を支払っており、同給与はこれまで当事者の婚姻費用として費消されてきた。
- 妻が理事を辞職し、転居したことを契機に給与は支給されていない。
- 一方でこれに対応して新たな雇用もされていないため、その利益分は医療法人に帰属している。
このような事案で妻が夫に婚姻費用分担の請求をしたところ、那覇家庭裁判所は次のように判断しました。
「妻が受給していた月額60万円(年額720万円)の専従者給与相当額については、その額を夫収入に加算するのが相当と考える。なぜなら、この専従者給与額に相当する利益は、平成16年5月以降、医療法人に帰属しているところ、同医療法人は、夫により設立され、自ら理事長となって業務を総理していることからすると、医療法人の財産は、現在、実質的に夫に帰属し、最終的にも夫が取得する可能性が高いと評価できること、その上、これまで専従者給与は婚姻費用として費消されてきたことも考慮すると、これを婚姻費用の分担額を定める収入とするのが相当と考えられるためである。」
また、上記審判は、分担義務者が個人会社の代表取締役である場合において、収入を単に源泉徴収票による報酬によるのではなく、会社の売り上げを考慮した実質的な報酬とし、その認定については、推認によった例として東京家裁昭和40年5月10日審判・家裁月報第17巻10号112頁を引用しています。
夫が経営者である場合には夫が会社から受ける収入を操作することができますので、婚姻費用分担額の算定にあたっては注意を要するところです。
(弁護士 井上元)